キスをされた頬を触れた。
熱い。真っ赤だ。俺は今真っ赤だ……。
隣を見れば真っ赤なクロエ先輩。俺の大好きな、先輩。
「……後片付け、頑張りましょう?」
「は、はいっ!」
可愛い、と思ってしまう。
……バカップルにならないように気をつけよう。
「志雄ー?」
「あ、今行きます!」
少し先へ行ってしまった先輩に追いつく為に小走りする。
祭りの後の静けさなど、もう気にならなかった。
そしてクロエ先輩と二人で生徒会室までやってきた。
他のメンバーはもう集まっている。俺たちも十分早かったと思うけど……。
「遅いですよ、先輩方!」
「あ、ああ。ごめん春日さん。結構早く来たつもりだけど……」
「ええ……早く来たつもりなのだけれど……ごめんなさい」
クロエ先輩が戸惑いながらも謝罪する。
「いやいや、謝らなくてもいいですよ。好きで皆集まったんです!」
春日さんは満面の笑みを見せる。
そして実行委員含む皆が立ち上がり。
パーン! パパーン!!
クラッカーが一斉に爆発した。
「……えーと」
俺もクロエ先輩もどう反応すればいいのかわからない。
「先輩方、おめでとうございます!!」
「な、なにが?」
「えーと、どういうことかしら、結乃」
「何が、じゃないですよ!
お二人が結ばれてめでたいってことですよ!」
「なっ」「えっ」
二人して顔が真っ赤になった。
「さあさあ、誓いのキスをどうぞっ!」
「するかっ! てか春日さんキャラ変わってない!?」
そんな恥ずかしいこと出来るかー!
「志雄」
「あぁ、もうっ。クロエ先輩も何か言ってくださいっ!」
呼ばれてクロエ先輩の方へ振り返った。
クロエ先輩は何かを思い至った顔。そして赤らんでいる頬。ま、まさか!?
「そうよね。志雄はもてるもの。私のものってことを教えておかないと」
「ちょ、ちょっと先輩! 落ち着いて! 空気に乗せられてるって!」
必死に先輩をなだめようとする。そして、それが無駄だとわかっている自分がいた。
「志雄」
「は、はいっ」
強く名前を呼ばれてしまえば俺はもう、何も言えない。
このときの先輩はずるい。
「目を、閉じて」
「……」
そう言われて素直に目を閉じようとして、思った。
何か違う気がする。
俺が目を閉じる? なんで? 先輩だから?
それはおかしい。おかしすぎる。
だから拒絶をすることにした。
「志雄……?」
中々目を閉じない俺を不安そうに見る先輩。
周りも動揺し始めた。
「嫌、です」
「え……」
「目は閉じません」
それは、キスの拒絶と捉えられても仕方がない言葉だった。不器用な自分が恨めしい。
「どう、して……?」
皆の前だから、なんて言葉を口にすれば春日さんを中心とした生徒会メンバーに殴られてしまうだろう。
「先輩」
「しお……」
泣きそうだ。ごめん、ごめん先輩。泣かせる気がなかったんだ。
「目を閉じて、先輩」
「え」
そのまま俺は、先輩の唇へと向かう。
「……」
唇が触れ合った。
それは軽いキスだった。軽く触れ合っただけ。
唇を離し先輩を見つめる。
「志雄ったら……」
「やっぱりこういうのって、男からでしょ?」
「……バカ」
「ごめん」
そう言ってもう一度キスをした。
今度はさっきよりも長く。
クロエ先輩を味わうように。
長く、長く繋がっていた。
「……先輩方、本当にお似合いの二人だと思いますよ」
春日さんからの言葉が、とても嬉しかった。
唇を離し、クロエ先輩を胸の中へと抱きしめた。
「きゃっ!」
もうやけくそだ!
「クロエは俺のもんだ! 文句あるかっ!」
「し、志雄!?」
生徒会の皆が大笑いしていた。
祝福されている、ということを強く感じる。
ありがとう、皆!
「クロエ先輩」
「志雄」
「「ずっと、一緒に」」
もう一度、約束を交わした。
幸せな、約束を。
2009/9/28