流離の埋葬機関

 

1.

 七年前までよく遊びに来ていたこの街に帰ってきた。

 ————仕事をするために。

 仕事の内容はシンプル。
 学校で女子生徒が夜な夜な学校に現れ窓ガラスやらなんやらぶっ壊していくそうだ。
 祐一の仕事はその女子生徒を止めること。
 デッドオアアライブ————生死問わず。
 まぁ、祐一には殺す気などないが————

「ふぅ。寒い。夜まで何処で過ごせと?」

 さっそく祐一は駅で立ち往生していた。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 とりあえず、夜までは喫茶店で過ごせたからよし。

「さて、問題の学校とやらに向かうか」

 って、ちょまって。

「オレ学校の場所しらねーじゃん!」

 これじゃあ唯のアホだ……。
 顔をしかめる。
 昼間に学校の場所を調べておかなかったのはミスだった。
 久しぶりに簡単な仕事だと思ってしまって気がかなり緩んでいたみたいだ。
 情けない。これではシエルや稀織に笑われてしまう。————と、そんなとき。

 するりと。

 立ち往生しているオレの隣をすり抜ける一つの影。
 ポニーテールの美しい後姿の女性。
 服は学校の制服らしきもの。
 腰には西洋の剣。

「あらら。当たりか?」

 オレは気配を消してその女子生徒の後をつけた。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「ビンゴ」

 静かにオレは呟いた。
 案の定、彼女が今入っていた建物は学校だった。
 これで確信した。
 暴れまわっている女の子は間違いなく彼女だろう。そして、オレはそれを止める。

「楽そうだな」

 オレも続いて学校へ入った。
 オレの顔は無表情。
 立ちはだかる敵を打ち倒す。それだけの存在になる。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 校舎に入り込んであの女の子を探して歩いているときだった。

 異質の気配がし————オレを襲った。

「がっ————」

 後ろから殴られた。気配もなく、音もなく、だが痛みは在る。
 右足に力をいれ、倒れないように踏みとどまる。
 背中を殴られた。ずきずきと痛む。
 これが刃物だったらオレは死んでいた。

「な、なんだ、こいつは!?」

 すぐさま体勢を立て直し、オレを殴ったと思われる"空間"を見る。
 "空間"としかいえない。だって、

「透明、しかも気配もなしときたか」

 もしかしてさっきの彼女はこの"空間"と戦っているのか、と思った。うん、きっとそうだ。
 なら、仕方ない。手伝ってやるか。

「まったく。さっそく使うことになるとは……」

 やれやれ、といった感じにオレは呟き、目を閉じる。
 体の中で何かがうねり、目を開ける。

 ————世界が白と黒の二色になった。

 音は全て遮断。
 動くもの全てはコマ送り。

 これがオレの持つ"魔眼"、"刹那の魔眼"の能力。

 来い、と口を動かす。
 なんせ、自分の声も聞こえない。結構不便だ。

 ずしり、とオレの右腕に重みが伝わる。

 長刀と呼ばれる長さの刀をオレは肩に置く。

「さて、全てを壊すぜ」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 川澄 舞は魔物の気配がする方へ走る。
 そして、そこに辿り着き、驚く。
 長刀を持ち、魔物と対峙している男が居たのだ。
 更に、両目が赤く輝いていた。
 それが何かは舞には理解できなかったが、どうやら魔物と戦うつもりらしい。

 ————魔物が祐一に襲い掛かる。

「危ないっ!」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 今相沢祐一の見る世界は白と黒のみ。
 彼の目の前に居る空間が、黒い影で現れる。

 形は小さな少女だ。
 だが、少女にあんな力はない、と体を納得させ、祐一は襲いかかってくる影の攻撃を避ける。

 全てがコマ送り。相手のどこかが動けば、すぐにわかる。だから、どちらに避けるなど簡単。
 故に名は刹那。瞬間の攻撃を瞬間で見る。

 だが、自分の動きもコマ送りになる。だから、調子に乗ることはできない。

 す、す、す————といったリズムで避ける。

 そして、相手のコマ送りで流れる動きを見、祐一も刀を振る。
 その攻撃を避けるのは不可。
 流れるように影を切り裂いた。
 そして、爆風のカマイタチを起こし、ズタズタに影を切り裂いた。
 それは刀の能力といっておこう。

「   !?」

 影が何かを喋った気がする。言葉を喋れるのか?

 そう思った祐一は魔眼を解除した。

「喋れるのか?お前」
「……あーあ、喋っちゃった」

 声は少女の声。
 高い綺麗なソプラノ。

「うん。喋れるんだよね、実は」

 そう言って、少女の姿が現れた。髪はツインテール。顔は幼い顔たちだが、女性と認識できる可愛さ。服装は綺麗な白いワンピースだった。
 なんとも動きづらそうな。ツインテールも川澄舞に対抗してるのだろうか。まぁ、容姿に関してはいいだろう。

 表情はやっちゃったという顔。つか、可愛いなこいつ。
 はっ。オレにはそんな趣味はないぞ!?

「そうか……じゃあ何でこんなことをするんだ?」

 オレはそう話し掛ける。
 少女はむっとした顔になり、叫んだ。

「だって、舞が拒否するんだもんっ!」
「……なるほど、な」

 オレは理解した。その一言で。
 その舞という子は自分の力を恐れて拒否しているのだろう。
 そして、それを殺そうとここで暴れてる、と。
 こんなとこか。

「舞が拒否するか……じゃあ、オレが受け入れてやる。お前という能力を」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「————え?」

 突然何を言い出すのか、この男は?
 私を受け入れる?私は舞の力で実体化している。
 だから、あんたが私を受け入れても意味がない。

「オレの刀は全てを壊す。彼女とのつながりとかも、全てな」

 どうする?と私を見る男。
 私は頷いた。
 だって、舞と殺しあいたくない!

「そうか」

 彼は微笑んだ。それは私が見た誰よりも優しい笑みだった。
 少し、どきりとした。なんか、その、ドキドキしてきた。
 そいえば、私が舞からこの男に宿りが変わるって事?じゃあ、私はこの男の"モノ"になるってこと!?
 は、はわわっ!?でも、いいかな。受け入れてくれるなら。

「じゃあ、壊す。いいな?」
「————うん」

 私が頷いたのを確認して、彼は刀を振り上げた。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 オレは少女が頷いたのを見て満足した。
 彼女がオレの"モノ"になることを同意したのだ。
 ……はっ!?いつからオレは幼女などに手を!?いやいや、待て待て。今は何も考えるな、俺。

 ぴりぴり、と舞と少女のラインを刀が見つける。
 それめがけて、オレは刀を振り下ろした。

 風が爆発した。
 何もかも巻き込み、破壊した。

 言い忘れていたが、オレの刀の名は"破壊"。そして、オレの職業は"埋葬機関 第二位『破壊』"である。
 まぁ、聞き流してくれ。たいしたことじゃない。

 そして、オレは少女へキスをし、自分の力と繋げた。

「んっ」

 甘い吐息が頬にふわっとかかる。それはくらりときた。
 まてまて、相手は見た目12歳くらいの子供だぞ!?
 それがオレを止めていた。犯罪はだめだ、うん。

 ————繋がった。

 静かに唇を離した。

「あっ……ねえ、もっかいしよ?」
「却下」

 そんなことしたらオレの理性がとぶ。
 それはマズイだろ。

「むーっ。ケチっ!」
「ケチで結構」
「うーっ」
「唸ってもダメ」

 思わずぎゅっと抱きしめそうになるがこらえる。
 だって、まだ敵がいるからな。

「さて、そろそろ出てきたらどうだ?舞とやら」
「え?」

 廊下の角から現れる一人の女性。
 彼女が舞だな。

「見てただろ?彼女はオレが貰ったから」
「————あなたも、魔物」
「その好戦的な態度。嫌いじゃないが、悪いがオレはお前よりも強いぞ?」

 それでやるか?と言った瞬間、彼女が消えた。

 右の死角からの斬りこみを軽く受ける。
 がきんと金属音が鳴る。
 それは廊下に響き渡る。
 連続で斬りつけてくるが、それを全て受け流す。

 止まらない攻撃。
 終わらない攻防。
 幾度と剣戟は続く。
 彼女は美しく剣を放つが、見える速さであったし何より剣筋が綺麗過ぎて読みやすい。

「飽きた」

 オレはそう言い、ザシュっと舞を切り捨てた。
 致命傷にはなるだろうが、今すぐ死にはしない。

「くっ」

 舞は地に膝を置いた。
 憎憎しくオレを睨む。鋭い目つきだ。

 オレは少女を抱き上げ、

「じゃあな。また会うかもな」

 そう言い残し学校を去った。

 この街は平和だ。平和ボケするほど。
 この街に任務で来ることはないかもしれない。

「わーっ。すごいすごいっ!飛べるんだね、あなた」
「……あなた?そうか。自己紹介してなかったな」

 屋根と屋根を飛び飛びで行く。
 腕にはきゃっきゃはしゃぐ少女。

「あ、そっか。っても、私には名前なんてないけど」
「そういえばそうだな。じゃあ、お前の名前は殺村————冗談だから首から手を離せ。お前が力いれればぽっきり行っちまう」
「……」
「ふぅ。じゃあお前の名前は……そうだな、月香……うん、月香だ」
「月香……は、はわーっ。私に名前が!?」
「ああ。オレは相沢 祐一。祐一でいい。よろしくな、月香」
「あ、う、うんっ。よろしく、祐一っ。えへっ、ちゅっ」
「んっ……て、おいっ」
「へへ−ん。油断大敵」
「んだと〜」

 笑ったり、無感情になったり、驚いたり、喜んだり、忙しいな、こいつは。
 でも、楽しい。
 今まで一定の人といることはなかったから。
 純粋に話をしていて楽しい。
 月が綺麗な空だ。
 満月を見て、オレはこの名前が思い浮かんだ。
 そばにいる少女がなんと言われようと守ろう。
 心の中で誓った。

「月香」
「なに?」
「ずっと一緒だな」
「え?……えへへ、うんっ!」

 満月の空。暗い闇に月香の笑顔がまぶしく輝いた。

 二人は流離の埋葬機関。




おわろう、うん、おわり。

あとがき
 何が書きたかったと問われれば「月香ですけど、何か?」としか答えられません(^^;
 物語で幼女とか言ってますが、そんな幼女でもなかったりします。
 あぁ、ちなみに月香は舞の幼い頃、じゃないですから。そこんとこよろしくです。
 シエルは、あのシエルです。埋葬機関とか言ってる時点でわかっちゃってるかと。
 稀織はオリキャラです。この物語じゃでてないですが、紹介。
 美坂 稀織 女性 22歳
 埋葬機関 第四位『氣』
 苗字からわかると思いますが、美坂家長女という設定。
 ちなみに一人称は「オレ」そして祐一に惚れている。何回もアタックしているのだが、祐一は断っている。
 でも、ある日二人で飲みに行った後、酔った勢いでいくとこまでいってしまった。それからも何度が肌を合わせたり。
 なんだがよくわからない関係、とつきみの頭の中では設定されてたり。
 つか、出したいなぁ、稀織。
 ちなみに、稀織は、きおり。月香は、つきか。と読みます。
 それでは、この辺で。
 2004/9/12 つきみ