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月香をオレの"モノ"にして三日。
オレは普段はONEという街に住んでいる。
本当はおね市というらしいが、オレはONEと呼んでいる。
それがこの街の本当の呼び方だからだ。
————まぁ、今はそんなことはどうでもよかったな。
朝になり、意識が覚醒してくるのだが、息ができない。
またか……。と半ば呆れながら目を開ける。
月香の顔がゼロ距離。
幸福にゃ〜♪と顔に書いてある。
ここ三日、起きればいつもこの光景だった。
息苦しく感じ目を覚ませば月香がキスをしてるのだ。
オレはぱちんっとデコピンをしてやる。
「ん、いたっ!」
「いつまでキスしてるんだ、お前は」
やれやれ、とオレは肩をすくめる。
何か反論をしそうな月香の顔。
女の服などあるわけもなく、オレのパジャマを貸してやった。
そしてそれを見事に着こなしていた。————上だけ。
上の服はいたって普通のTシャツみたいなもんなんだが……ちらちらと下着が見え、目のやり場に困る。
胸は発育途中なのでそう気にならないんだけどな。
「おはよっ、祐一っ」
「ああ……おはよう」
のっそりと布団から出る。
アパートの一室。
二人で暮らすにはちと狭い。
そんな部屋にオレと月香は住んでいた。
「つーか、月香。お前とオレは繋がってるんだからオレの中に入ってろよ」
「いーやーっ。私は祐一といるも〜ん」
そう言ってオレに抱きつく。
「幸せ〜♪」
この幸せそうな笑顔を見ると何も言えなくなるし、何より。
「オレも幸せかも」
そう呟いてぎゅっと抱きしめ返す。
何より、オレも抱きしめたいという衝動に駆り出される。
朝っぱらから二人、抱きしめあう青年と少女。
至福のひと時だった。
————このときまでは。
「オレという女がいながらガキに手ぇ出してんじゃない、祐一」
しまった……"約束"のこと、すっかり忘れてた……………………
オレはぎぎぎと錆びた機械のように、声がした方へ首を動かした。
そこには笑顔で立っている稀織が居た。笑顔がこ、こわひっ!
さらりと肩まである綺麗なさらさらストレートヘアー。
細長い鋭い目つき。
薄いTシャツの上にジャケットを着こなし、ジーパンを履いている。
「よ、よう。稀織……ひ、久しぶりだな」
やべ。どもった!
月香は「誰?」といった顔で稀織を見ている。
「こ、これには訳が————んぐっ。ん、な、」
言い訳する暇もなく稀織の唇がオレの唇と重なった。
舌をオレの唇に入れてくる。そして、ぐちゃぐちゃにオレの口内を荒らす。
その甘さにオレは力を失う。
やば、まじ久々に気持ちいいかも。
「ちょ、ちょっと待ったーっ!」
月香が声を上げた。
唇が離れる。
「ぷはっ…………何?」
「何?じゃないよっ。祐一にいきなりなにしてんの、あなたっ!?」
「何って、ディープな大人な、ガキにはできない、濃厚なキッス。おっけ?」
「は、はわーっ!」
顔を真っ赤にさせる月香。
対する稀織が余裕の大人の笑み。
オレは二人にわからないように溜め息を吐き、稀織に言う。
「気配を絶って、音もなしにオレの部屋に入るなと何回言えばわかる?稀織」
「オレの耳はそんな言葉は聞いてないと言ってるが?」
綺麗なソプラノは平然と言い返してくる。
「それよりも、祐一。お前、なんだこいつは。人間じゃないということと意思を持つ魔力ということはわかっているから、正直に成り行きを話せ。早く話さないと犯す」
「いや、話してもやるつもりだろ」
「そうか」
オレを無理矢理押し倒そうと、迫り寄る稀織の首元に"破壊"を添える。
「落ち着いてくれ」
「……オレとしたことが……祐一のことになるとどうしても」
「それだけオレが愛されているのはわかってるから。まぁ、かくかくしかじか(流離の埋葬機関参照)だ」
「なるほど。相変わらず、お前は優しすぎだ」
「そんなことはない。優しいのは稀織と月香だけだ」
「前まではオレだけだったのに……」
「そう拗ねるなって。今晩付き合ってやるから」
「……当たり前だ。そのために来たのだしな」
「なに二人で仲良く会話してるのーっ!!!」
月香大絶叫。
近所迷惑間違いなし。
はぁはぁと息を切らし、月香はじろりと稀織を睨む。
「祐一とはどーゆう関係なの?」
その質問に稀織はさらっと答えた。
「肉体関係」
「はわーっ!!」
またもや月香の顔は真っ赤になる。
だが、今回はフリーズせず。
「な、何しにきたの!?」
「祐一を抱きに」
「は、はわわわわっ!?」
またもやしれっとポーカーフェイスで話す稀織。
「そ、そもそも祐一は稀織のことをどう思ってるの!?」
「んーどうって言われてもな……稀織には悪いが恋愛という感情はない。おそらく欲求不満を解消する存在だ。セックスフレンドってやつか」
これは本人には悪いと思っているが、オレには恋愛という感情はない。
好き という気持ちはあるが、愛してる という感情はない。
理由は"破壊"と契約するときに、捧げたからだ。
だから、オレに恋愛という感情はない。そのことを稀織も知っている。
「は、はわっ」
「オレは祐一が大好きだ」
「……ありがとな」
こんなオレを愛してくれて。
その言葉は恥ずかしかったので声に出さず、心で言った。
「お、大人だよーっ!うわーんっ」
「つ、月香!?」
「くくくっ、はははっ」
泣きながら月香は部屋を飛び出していった。
それを見て稀織は爆笑している。
「はぁ……腹減ったら帰ってくるだろ」
悪いが投げやりだ。
「さ、祐一。邪魔者はいなくなった」
「いや、まだ朝なんだけど」
「知らん」
稀織はオレを押し倒した。
あー、なすがままだな、オレ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「激しすぎたかね?」