? 滅ぶ街を想う埋葬機関

滅ぶ街を想う埋葬機関

 

 あなたは知っているだろうか。
 相沢祐一にも幸せな時間があったことを。

 それは本当に、幸せ。
 誰もが持っている、幸せ。
 永遠に続くと思う————幸せ。

 物語は彼が破壊を手に入れる、一ヶ月前にから始めようか————

1.

 ————♪

 綺麗な歌声が祐一を包む。
 眠るなどできない歌声。

 眠ったら聴けないだろ。それはもったいない。

 誰もがそう思う歌声。
 それを奏でるは白河ことり。

 何もない、静かに人々が暮らす島、初音島。
 いや、何もないはおかしいか。桜が散らない島。そして、極まれに特別な力を持つ島。それが初音島。

 ————♪

 目を閉じ、笑顔を浮かべ歌を聴く祐一。
 同じく目を閉じ、歌を奏でることり。

 この幸せな時間を誰が邪魔できようか。

 島で一番大きな桜の下。彼らは今この時間を楽しんでいた。

 ————。

 歌が止む。それと同時に祐一とことりは目を開く。
 以心伝心しているように、祐一は口を開く。

「よかったよ」

 祐一は微笑む。

「ほんと!? ありがとう、祐一くん」

 祐一の言葉にことりが笑顔を向ける。
 特別な笑顔。
 祐一にしか向けることない特別な笑顔だ。

 言い忘れたいたが、祐一とことりは恋人同士である。
 二年くらい前からそういう関係になった。
 それ以来、ずーっとラブラブだ。

 風が吹く。肌寒い感じを思わせる。風でなびくことりの髪に祐一は綺麗だといつも思う。そして、今もそう。

 二人に言葉はない。だが、それでも分かり合っている。

 ことりは心を読む能力を持っている。だが、祐一の心を読むことなどしていない。
 それでも、分かり合える。

「……寒くなってきたな。帰ろうか、ことり」
「そうだね。帰ろっか」

 そして自然に手を繋ぎその場を去った。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「いただきます」

 夜ご飯。
 人数が意外と多いらしい。

 相沢祐一。その隣に白河ことり。さらにその隣に橘暦。旧姓は白河。
 向かい側には朝倉純一。隣に朝倉音夢。その隣に暦の旦那さんの橘茂。
 計六人。なかなか大家族である。だが、全員血は繋がってない。それでも、この六人は家族なのだ。

 祐一の母と父は、仕事でこの里を離れている。思えば————祐一と父の母は生きているのか。
 まぁそんなことは今はどうでもいいことだ。

 幸せな日常。
 幸せな日々。
 幸せな毎日。

 この時間が永遠に続くんだと。

 ここにいる誰もが思っていたに違いない。

 祐一も、そう信じていた。

 ————が。

 壊れたのだ。
 今日、この日の夜に。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「たらふく食べたし……ちと運動するか。なぁ純一」
「ああ、そうだな」

 夜の運動を、祐一と純一は欠かさずやっている。
 今日も行うのだ。

 ここで、世界は非日常へと変わったのだ。

 ガチャリと。誰も尋ねてこないはずの夜に。
 ドアが開いた。
 祐一を非日常へと誘う扉。
 望んでもいないのに、進んでしまった世界へと、行く————。

「ふ、ふは、あ、、ひゃあああああ!」

 その奇声を上げたのはここより下の里に隠れ住んでいるものだった。
 お互い仲も良く、戦うなどもってのほかの村。

「な、なんだこいつ……!」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 そよそよ————

「いい夜だ……さぁ、踊れ————踊れ」

 一番大きな木のてっぺんに、見知らぬ大きな男が————薄笑いを浮かべて立っていた。

 名は————タタリという。

2.

 そこは戦場だった。いや、戦場と言えるほどでもない。ただの大量虐殺。
 逃げる人々を殺している人は、殺された人々。しばらくして、崩れ落ちる殺戮人形。キラーマシーン。
 何故崩れ落ちるのか。それはおそらく体に流れているタタリの血に体が耐え切れないからであろう。

「豊作を願っていたんだろう?これでそのことも考えなくてすむだろう。ふふ、フハハハハ!!」

 一人、血に酔いしれる。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 それは純一の首に牙を立てた。

「つっ!?」

 俺たちはそれを黙ってみているだけだった。
 何がおきてるのかも理解できない。
 何をしているのかも、わからない。

「……ぐ、ぁあ」

 純一はうめくように声を立て、俺たちにゆっくり歩いてきた。
 それに、純一に牙を立てた男もゆっくりついてくる。

 本能が危ないと感知した。でも、恐怖で動くことすらできなかった。

「ぁあ、ぁああ————」

 ぞぶり。

 純一が暦さんの綺麗な首筋に、噛み付いた。

「暦さんに、何をする!」

 茂さんが純一に殴りかかる。
 一直線に顔面めがけての右ストレート!

 がつ!

 モロ入った。これで純一は起き上がれない……まじかよ……。

「が、ぁあ————!」

 起き上がり、茂さんに襲い掛かる純一。
 もう一人の男も暦さんに襲い掛かる。

「もう、もうやめて兄さん!」
「音夢……。くそ!逃げるぞことり!」

 放心状態のことりを連れて俺は家から飛び出し、獣道を駆ける。

「はぁ、はぁ」
「はぁ……くそ……何が、どうなってるんだ……っ!」

「ステージから逃げ出しては困るのだよ、少年少女」

 ぞくり。

 全てを凍らすような、殺気のこもっている声に俺とことりの足は止まった。
 動けない。足がぴくりとも動かない。
 俺は地面に立っているのか?
 それすらもわからないほど、体が凍りついた。

「君たちには私が、直に手をかけよう」

 背の高い男が立っていた。
 ソレは一歩一歩、プレッシャーをかけながら俺たちの方に歩み寄る。

 逃げなければ、と考えていたときに、ことりは俺の方を向く。

「祐一くん……逃げて!」
「な————」

 何を馬鹿なことを!
 そう言おうとしたときに、ことりにキスをされた。
 俺に全てを託すような、そんなキス。
 俺に全てを背負わすような、そんなキスを。

 唇が離れ、ことりは俺を突き飛ばした。
 歩み寄る男とは逆の方へ。

「まずは、少女からか。良い血をお持ちだ」

 ソレは、ことりの首筋に、牙を————。

「うぁあああああああああああああああ」

 俺は逃げた。発狂したように、叫んで逃げた。
 見ていられない。ことりが純一のようになるなんて、見ていられるわけがない!

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 しばらく走ると、祠が見えた。
 俺はもう走れないという状態なのに、そこまで走りきった。

「はぁ、はぁ、はぁあ————」

 思い浮かぶのは、みんなの笑顔。
 ことりの、笑顔。

 全て俺は見捨ててきた。全て、捨ててきた。

「……俺は、はぁ、はぁ……なんて、ことを……」

 今更後悔などしても、遅い。

 ことりが歌っていたが思い浮かぶ。
 それを、なんとなく口ずさむ。

「————」

 癒されている。癒している。そんな、感覚に陥る。
 この感覚……知っている。毎日聞いている。そう、これは、ことりの歌。

 全てを託したキス。それは歌だった。
 私を忘れないで、と彼女が俺に託したものだったのだ。

「ぐ、ふぅ、ぁ、ぁああ————」

 涙がとめどなくあふれてきた。
 止めることなどできやしない。
 全てを見捨てたことに泣いているのか。
 全てを背負ったことに泣いているのか。
 そんなことわからない。けど、涙が止まらない。

 何を泣く、少年よ。

 声が聞こえた。
 気のせいではなく、確かに聞こえた。
 その声に呼ばれるようにふらふらと祠の奥へ歩いて行く。

 キィン————

 闇の中でも黒く光る一筋の刀が祭ってあった。

 全てを守る力、汝に与えよう。

「本当か……!?」

 我は全てを破壊する闇の刀。
 汝が大切な何かを我に奉げれば、力を汝に与えよう。

「その言葉に、偽りはないな!?」

 偽りなどない。望むなら、我を握れ。

 俺は刀を握り、叫んだ。

「恋愛感情————それをお前に奉げよう!俺はことりを想い続ける。だから、ことり以外のものに恋愛感情がいかないよう、奉げよう!」

 我の"破壊"の力、汝に与えよう!

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「私の固有結界の外へ逃げたというのに、戻ってくるとは……そんなに、この少女が心配だったのかね?」

「ぅう、ぁああああ」

 呻き歩くソレ。歩み寄って来たソレを、破壊で切り裂いた。
 風が爆ぜ、ソレを粉々に吹き飛ばした。
 ことりだったソレは、満足そうに微笑んで消滅した。

「なん、だと————」

 俺の頭に流れる言葉は、破壊。
 全てを破壊する————!

 俺はまっすぐ男へ駆ける。

 ヤツは危険だと判断したのか。後ろに飛びのく。
 俺は地面に破壊を叩きつけた。

 どんっ!

 地を巻き込み風が爆ぜる!

「む————!」

 砂埃を立てる。向こうは俺が見えないだろう。もちろん俺も見えない。
 が、破壊が、アレを壊せと、命じて、くる————。

 何の迷いも無く何も見えぬ砂埃の中に飛び込んだ。

「破壊せよ————」
「————な、に」

 ずどんっ!!!

 酸素、窒素、二酸化炭素————全てを含む空気、この空間を、破壊した————!

「フフ、ハハハハ!私は人の噂、願いで現る死徒。こんなんで、滅せたと思うな!」

 そういい残し、ヤツは消え去った。

 体は良くわからない感覚に負われている。
 戦う知識を流し込まれている。次から次へと。

 ぐらり、と景色が揺らぎ俺は意識を失った。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「あの後、シエルに拾われたんだっけな」

 空を見上げて、俺は呟いた。

「祐一……」
「ん?どうした月香」
「悲しい顔してるよ」
「……そうだな。ここは今の俺が生まれた場所なんだ。破壊を手にして、全てを失った場所」

 俺は空を見上げたまま呟いた。

 顔を正面に戻した。俺が住んでた家。見た目はあの頃のまま。
 玄関から中に入ると、あの頃のまま、全てがあった。
 ただ違うといえるのは、壁や家具に染み付いている赤色の模様。

「……ここは、悲しい想いがたくさんとんでるね……」

 月香が悲しそうな声で呟いた。
 俺の記憶がつながっているため流れ込んだのか。それとも、感じ取ったのか。
 本当に悲しそうな顔をしている。

「ここが俺の故郷。俺の帰るべき場所さ。さ、そろそろ帰ろう」
「……うんっ」

 音夢、純一、暦さん、茂さん————ことり。

「また、来年くる。元気でな」


 祐一くんも元気でね。


 ことりの声が、聞こえた。空耳でも幻聴かもしれない。それでも、俺は少し癒された気がした。


 彼は想う。この街が、幸せに包まれていた頃を。



おわり


あとがき_1
 お久しぶりです。つきみです。
 あけましておめでとうな時期に更新再開。
 年末、年始は忙しいですね……。
 去年はそう忙しくなかったんですがね……。
 今回は……というかこのシリーズは短いです。
 それでは、次回で。
 2005/1/3 つきみ

あとがき_2
 やっと完成しました。Web拍手での応援ありがとうございました。
 次回からは、ようやくKanon編です。
 では、また次回で会いましょう。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
 2005/4/10 つきみ